はじめに

これまでにフットプリント、ボリュームプロファイル、オーダーフローの基本というように、売買の流れを分析するオーダーフロー(Order Flow)について解説してきました。

オーダーフローツールは単なるチャート上では見ることのできない部分を解析することで、実際の需要と供給を明らかにして透明性を向上させます。

その中でもオーダーブック(注文書)はすべての買い手と売り手が出会う場所であり、オークションが行われる場所です。

それは全体の需要と供給を表しており、オーダーブックは各トレーダーが持つ意図に対する洞察を提供します。この情報は短期的な価格行動を予測するために使用できます。

例えば、特定の価格レベルで大きな売買があった場合、そこでは更に多数の注文が引き付けられます。多くの場合、これらは現在の価格を上回っているか下回っているかに応じて、サポートとレジスタンスとして機能します。

というように、オーダーブックの活動により価格が変動することから、価格の動きと注文の関係を分析する必要があります。

ただし、オーダーブック分析を行うとしても実際には多くの課題があります。

現代ではコンピューターによるアルゴリズム取引が非常に多く、中でも超高速で取引を繰り返すHigh Frequency Trading(HFT)と呼ばれる手法では、注文の最初となるために多くの価格レベルで指値注文を出します。

このようなものは価格が変更されたときに行われますが、注文の大半は価格が上がったり下がったりするとキャンセルされます。

つまり、マーケットに送られるすべての指値注文が取引する意図を示しているわけではありません。

価格を操作するために巨額の指値注文を設定して売り圧や買い圧を作り、偽の流動性を生み出すトレーダーも存在しています。

そして場合によっては、すべての注文が注文書に表示されないこともあります。これは取引所によって異なる注文の種類があるためです。

このようなときにヒートマップが大きな役割を果たします。

ヒートマップとは

1980年代以前では、指値注文に関する公開情報はありませんでしたが、今ではこの情報を利用することが可能です。つまり、この情報を利用したチャート作成方法を開発することが可能です。

これがヒートマップ(Heatmap)と呼ばれる、オーダーブック(指値注文)を可視化するツールです。ヒートマップは結果を表示するのではなく、価格を実際に決定する要因であるオーダーブックをわかりやすく可視化するため、意思決定を行う上で重要な役割を果たします。

つまり、データを可視化させることは難しい概念をより簡単に把握したり、他の方法では観察できないパターンを特定できます。

更に技術の進歩により、ビッグデータの可視化が可能になりました。これまではオフラインでしかできなかった可視化が、現在のCPUやGPUではリアルタイムで行えます。

市場データを正確に読み取れない場合には誤った意思決定が実行されてしまいがちですが、ヒートマップのように一目で一定の情報をチェックできることは、そのような失敗を生み出しにくくなります。

そしてヒートマップでは「リアルタイムでチェックできる」ということが重要で、マーケットをいつでも監視することができるため、取引戦略が機能するかどうかの決断を迅速に行えます。

ヒートマップはリアルタイムで指値注文の規模を可視化する(Bookmap)

上記画像はヒートマップツールを提供するBookmapによるものですが、ヒートマップを提供するソフトウェアは多くあります。

ヒートマップは指値注文の規模の大きさによってこのように色分けされており、サイズが大きいほど強調(例では黄色やオレンジ)表示されています。

この例では、2741.50(オレンジ色の線)に多数の指値買い注文が見られます。

赤い点線は最良売気配(Best Ask)です。緑の点線は最良買気配(Best Ask)です。

ここでは2741で流動性の高い領域にヒットしたあと、価格は一時的に反発し、 その後同じ領域を再びテストしていることを見ることができます。

また、黄色い線で表されているように、2745には多数の指値売り注文もありますが、これは、価格が2745に上昇した場合にレジスタンスエリアとして機能することが予想されます。

このようにヒートマップはリアルタイムで更新されるため、マーケットの変化を敏感に感じ取ることでより深い洞察を得ることができます。

ヒートマップでは以下のような重要な視点を可視化によって明らかにしてくれます。

  • 各価格でのサイズは時間の経過とともにどのように変化したか
  • 特定の価格に移動したとき、他の価格では何が発生しているか
  • その価格より下または上に追加の強い注文が存在しているか
  • これらの価格レベルの周りでは出来高の規模はどれくらいか
  • オーダーブックが対称的ではないなど、特徴的な場所があるか

数値上で分析する場合には時間がかかってしまいがちですが、ヒートマップでは多くの時間をかけずにこのような情報を得られます。

HFTとAIの時代において人間ができること

HFTのようなコンピューターによる高頻度取引は人力では不可能な早さで何度も取引を行い、 人工知能アルゴリズムは膨大な量の市場データのパターンを検出できます。

我々のような人間では、これらとまともに相手をして競争することは不可能です。

現段階で人間がこのような機械相手に優位性を得ることができるのは何かというと、それは視覚的要素です。

簡単な証拠は視覚的パズルを解いて人間であることを証明する際に用いられるCaptchas(キャプチャ)です。

人間が機械に対抗しうるのは視覚的要素(Bookmap)

これらキャプチャが使用されている理由は、機械よりも複雑なパターンを見つけられるのが人間であるからです。

典型的な階段パターン(Bookmap)

上記画像を見ると、何らかの意図を持ったトレーダーによって大きな売りの指値注文が設置されており、それが価格にどのような影響を及ぼすかを一目で理解できます。

大規模トレーダーの行動を察知する

大規模なトレーダーは通常、小規模なトレーダーよりもマーケットに影響力があります。彼らは大きな力を使うことでマーケットを自身にとって望ましい方向に動かすことができます。

しかし、彼らは流動性への影響を考えながら大量の注文を実行または管理するという課題があります。

これにより、彼らは自身による活動を検出されないよう行動します。この活動が単一のトレーダーに属しているという事実を隠すためです。

大規模トレーダーが自身の活動を曖昧にするために使用する技術の1つは、大きな注文を小さな注文に分割し、それらを1つずつ出すことです。これはアイスバーグ注文と呼ばれています。

それに加え、特定をより困難にするために彼らは取引間隔をずらしたりサイズをバラバラにするなどのノイズを追加します。これはBotに対しては効果的な方法ですが、人間の目ではそれをすぐに見つけることができます。

ヒートマップによるリアルタイム分析(Bookmap)

上記例では、複数の価格レベルに突如として大きい指値注文が出現していますが、ほぼ同時に現れたことから単一のトレーダーによって行われた可能性があります。

このように流動性を可視化することにより、人間の視覚と人間の理解という利点が追加されます。取引の他のツールと同様に、これは成功を保証するものではありませんが、それを持っていない他のトレーダーよりも優位に立つための優れた手段を提供します。

本物と偽物の流動性

流動性はマーケットでトレーディングすることにおいて不可欠です。

一言で言えば流動性とは、資産の価格に大きな影響を与えることなく、資産を売買する能力を指します。これにより、各取引のリスクが最小限に抑えられます。これが少ないほど売買に対する市場への影響が大きくなります。

大規模に売買を行う人々がたくさん存在していれば、我々は彼らのおかげで安心して売買を行えますが、閑散としているマーケットでは買い手や売り手の規模が小さいため、割高(プレミアム)で購入するか、割安(ディスカウント)で売却する必要がでてきます。

こういったことから、流動性は価格決定において非常に重要なポイントではあるのですが、Depth of Market(DOM)を使用して取引を行う一部の短期トレーダーは、DOMに表示される流動性がHFTのような取引意図を持っていない指値ばかりであると仮定し、それをあまり見ないケースがあります。

その中にはマーケットで価値のある洞察を提供する注文があることを彼らは理解していますが、HFTによる大量の注文の中に紛れ込んでいることが多いため、人間がそれらを正確に追跡することは難しいものです。

取引を意図していない偽の流動性(Bookmap)

上記画像は偽の流動性を表している典型例です。

明るい白および黄色のバーで示されているように、高い流動性のレベルが見られます。

しかし、価格がそこに向かうとその流動性は突如として消えました。

これが意味することは、これらの注文はアルゴリズムか人間のトレーダーによって行われたかに関わらず、その価格で取引するという本当の意図はありませんでした。

これにより、オーダーブックを見ていた多くの人は誤ったサポートとして認識していた可能性があります。

取引を意図した本物の流動性(Bookmap)

先程の件とは逆に、こちらは本物の流動性です。

見てわかるように122.65での流動性は高く、明るいオレンジ色のバーで示されています。

価格がそのレベルまで取引され始めると、その流動性は移動することなく実際に取引が行われました。

これが大量の指値注文による本当のサポートおよびレジスタンスエリアの違いです。

ここでは対応する供給を満たすのに十分な需要が提供されなかったため、122.65の通過は拒否されました。

一方で偽物の流動性ではその領域自体がなかったため、価格が突破するのにほとんど問題はありませんでした。

おわりに

ヒートマップを用いることで詳細な流動性に関するデータを紐解くのに役立ちます。

DOMはマーケットの流動性を決定するための基本的な手段ですが、ヒートマップは正しい取引戦略を構築するためのより多くのデータを提供します。

最終的にすべてのトレーダーの主な目的は実際の流動性を確認し、価格変動を予測し、成功した取引から利益を得ることにありますが、これは適切なツールとマーケットが持っているデータを明確に理解することによって達成されます。

より確度の高い分析を行うためにも、自身が用いるツールについて多くを知っておく必要があります。

ヒートマップは難解な分析を比較的行いやすくしてくれる有益なツールであるため、分析の際には一度使ってみることをおすすめします。

参考資料